2025/12/19
【管理栄養士が解説】HACCPとは?基本を分かりやすく解説
食品を取り扱う会社では、HACCPの導入が義務化されています。
しかし、呼び名が英語でとっつきにくく、専門用語も多いため、「よく分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか。
実は私自身も、HACCPについては国家資格の勉強で学んでいたものの、実際に現場で経験するまでは、正直なところ十分に理解できていませんでした。
とはいえ現在、HACCPはすべての食品関連事業者に求められている衛生管理の仕組みです。「分からないまま」では済まされません。
そこで本記事では、HACCPの基本について、できるだけ専門用語を使わず、やさしく分かりやすく解説していきます。
なお筆者は管理栄養士であり、日本食品分析センターが実施する「HACCPシステムに係る教育訓練カリキュラム」を修了しています。
HACCPについて基礎から理解したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
・HACCPとは?基本について
・HACCPで絶対に抑えておきたい3つのポイント
・HACCPの7原則12手順
・まとめ:HACCPを理解し、安全な食品づくりに活かそう
HACCP(ハサップ)とは?基本について
HACCPとは、簡単に言うと、科学的な根拠をもとに、食品の安全を守るための衛生管理方法です。
従来の一般的な衛生管理が、
「手洗いを徹底する」「清掃を行う」といった作業全体のルール管理であるのに対し、
HACCPは、食品の製造工程ごとにリスクを分析し、特に重要なポイントを重点的に管理する点が特徴です。
つまり、
「すべてを同じレベルで管理する」のではなく、
「ここさえ確実に管理すれば、食中毒などのリスクを大きく減らせる」
というポイントを科学的に見極めて管理します。
卵には、サルモネラ菌による食中毒のリスクがあります。
しかし、サルモネラ菌は十分な加熱によって死滅します。
そのため、仮にサルモネラ菌を含む卵が原材料として入荷した場合でも
加熱工程で適切な温度・時間を守って調理すれば、安全な食品を提供できます。
この場合、「加熱工程」が最も重要な管理ポイントであることが分かります。
そこでHACCPでは、
- 何℃で
- 何分以上加熱するのか
といった具体的な管理基準を定め、記録し、管理します。
このように、HACCPシステムとは、
食品の製造・調理の全工程の中で、食中毒などのリスクにつながる要因を見つけ出し、特に重要なポイントをしっかり管理する仕組みです。
問題が起きてから対応するのではなく、問題を未然に防ぐことを目的とした、予防型の衛生管理といえます。
HACCPで絶対に抑えておきたい3つのポイント
HACCPを知る上で、最低でも抑えておきたいポイントを3つに絞って解説します。
重要なのは次の3つです。
危害要因(ハザード)
危害要因とは、健康に悪影響を及ぼす可能性のある要因のことをいいます。
上記の卵焼きの例でいうと、サルモネラ菌が危害要因です。
危害要因には、主に以下の3種類があります。
- 生物学的危害:ウイルス、細菌、放線菌、カビ、酵母、寄生虫など
- 化学的危害:アレルギー物質、基準値を超えた食品添加物、環境汚染物質や農薬など
- 物理的危害:ガラス片、金属片など
HACCPでは、まず危害要因を特定し、そのリスクに応じた管理方法を考えることが基本です。
そのため、危害要因の種類や特徴を理解しておくことは非常に重要です。
重要管理点(CCP)
重要管理点(CCP)とは、食品の安全を守るために、特に注意して管理する工程や作業のことです。
たとえば、上記の卵焼きの例なら「加熱工程」がCCPです。ここをしっかり管理すれば、サルモネラ菌による食中毒を防ぐことができます。
HACCPでは、どの工程がCCP(重要管理点)になるかを見極め、具体的な管理基準を決めて運用します。
そのため、CCPを正しく理解することは、食品の安全を守るうえで非常に重要なポイントです。
HACCPの7原則12手順
HACCPの7原則12手順とは、実際にHACCPを導入するための道筋となる手順のことです。
12の手順に沿って進めることで、HACCPを現場に正しく導入できます。
そのうち7つは「7原則」と呼ばれ、HACCPの中でも特に重要な部分です。12手順は、この7原則を現場で実行するための具体的なステップと考えると分かりやすいでしょう。
HACCPを正しく運用するには、この7原則12手順をしっかり理解しておくことが重要。
詳しい内容は次の章で解説しますので、まずは「HACCPには7原則12手順がある」というポイントを押さえておいてください。
HACCPの7原則12手順
HACCPの7原則12手順は、次の内容になっています。
- 手順①専門家チームの編成
- 手順②製品についての記述
- 手順③使用についての確認
- 手順④製造工程一覧図、施設の図面および標準作業手順書の作成
- 手順⑤現場確認
- 手順⑥危害分析【原則1】
- 手順⑦重要管理点の決定【原則2】
- 手順⑧管理基準の設定【原則3】
- 手順⑨モニタリング方法の設定【原則4】
- 手順⑩改善措置の設定【原則5】
- 手順⑪検証方法の設定【原則6】
- 手順⑫記録の維持管理【原則7】
この12手順に沿って進めることで、HACCPを実際に運用できます。
手順①~⑤は、7原則を実行するための準備工程にあたります。
手順①専門家チームの編成
まずは、HACCPを運用するために、食品衛生の専門知識を持つチームを作ります。HACCPは一人ではできないからです。
チームには、製造施設の最高責任者、製造管理責任者、品質管理責任者、機械・器具担当者など、現場をよく知るメンバーを揃えます。
手順②製品についての記述
食品を製造する際に、使用する原材料について確認します。扱う食品によってリスクが変わるためです。
具体的には、種類、原材料、形状、保存方法などを詳しく整理します。
手順③使用についての確認
食品がどのように使用されるかを確認します。加熱されるのか、生で消費されるのかなど、使用方法によってリスクが変わるためです。
手順④製造工程一覧図、施設の図面および標準作業手順書の作成
食品が作られる全行程を図や表にまとめます。
施設の配置や作業手順を整理することで、危害のリスクがある工程を見つけやすくなります。
手順⑤現場確認
実際に工場や調理場を見て、手順④で作成した工程図や作業手順書通りに作業が行われているかを確認します。
正確な現場の状況を把握することで、次の危害分析を正しく行うことができます。
手順⑥危害分析【原則1】
すべての工程で、どんな危害(食中毒や異物など)が起こりうるかを分析します。
危害分析は以下のステップで行います。
- ステップ1:危害要因の列挙
- ステップ2:危害の起こりやすさ、重篤性の評価
- ステップ3:発生要因の特定
- ステップ4:管理手段の特定
手順⑦重要管理点の決定【原則2】
危害を防ぐために、特に厳重に管理すべき工程(CCP)を決めます。
具体的なCCPの例は以下の通り。
- 添加物の計量または添加段階
- 冷却・冷蔵保管工程の温度管理
- 加熱殺菌工程
- 金属検出器
- 冷凍温度と時間 など
手順⑧管理基準の設定【原則3】
CCPで守るべき具体的なルールを決めます。
例:加熱温度は75℃以上、加熱時間は1分以上など。
手順⑨モニタリング方法の設定【原則4】
CCPが正しく守られているかを確認する方法と、その記録の付け方を決めます。
具体的なモニタリングの記録の例は以下の通り。
- 記録した日付
- 製品を特定できる名称や記号
- 測定時刻
- 測定結果
- 測定者のサイン など
手順⑩改善措置の設定【原則5】
もしCCPが守られなかった場合に、どのように対応するかの手順を決めます。
例:加熱不足なら再加熱する、製品を破棄するなど。
手順⑪検証方法の設定【原則6】
HACCPシステムが正しく機能しているかを確認する方法を決めます。
例:定期的にサンプル検査を行う、記録の点検など。
手順⑫記録の維持管理【原則7】
HACCPで行った管理やチェックの結果を記録し、すべてを保管しておきます。
衛生管理、工程管理の貴重な証拠になります。
まとめ:HACCPを理解し、安全な食品づくりに活かそう
HACCPは、食品の安全を守るための科学的で予防的な衛生管理の仕組みです。
危害要因の特定、重要管理点(CCP)の管理、そして7原則12手順に沿った運用がポイントです。
今回解説した内容は基礎の部分ですが、しっかり押さえておくことで、安全な食品づくりにつながります。
HACCPを正しく理解し、毎日の業務に活かしていきましょう。
株式会社メディカルフロンティア 専属ライター(管理栄養士)
▼管理栄養士の現場経験11年
▼栄養指導3年、調理現場3年、献立作成5年
これまで病院に所属し、主に栄養管理や献立管理を担当してきました。
栄養士コラムは自身の経験も踏まえ、その他、転職や業界情報などみなさんの役に立つ情報発信を行っていきます。
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